オカルト(中心)ライターのスピンオフ原稿

キャリア28年の翻訳家/ライター宇佐和通の日々のあれこれ

ブックエージェントの話

春の訪れが嬉しくてたまらない宇佐和通です。
 
僕は以前、ブックエージェント的な仕事をしていました。英米の出版社が出している面白そうな本を探して日本の出版社に紹介し、翻訳契約を結ぶところまで持っていきます。ロサンゼルスやシカゴで行われる見本市にも毎年行っていました。

シカゴの見本市に初めて行った時は、大手出版社ばかり回って適当にあしらわれることが続いたので、2回目からはインディ系の出版社に絞ることにしました。アメリカの小さな出版社はニッチな市場を意識して、ジャンルもテーマもかなり絞り込んだ企画で勝負をかけます。そんな中、1995年に『Vampires Are』(『バンパイアとは』)という本を見つけました。
 
ニューヨークにあったバンパイア・リサーチ・センターの所長を務めるスティーブン・カプラン博士という人が書いた本で、初版は1993年。女バンパイアとのインタビューやバンパイア狩りの道具の細かい解説など、とても斬新な企画でした。直接顔を合わせることはなかったものの、メールや電話でのやりとりの中で、大多数の人たちが苦笑いで済ませるだろうジャンルの研究に真摯な態度で向き合っていることが感じられました。
 
この本は1996年に新書で発売されました。でも、想定読者層の絶対数があまりにも少なかったようで、結果はさんざんでした。1994年に公開されたトム・クルーズブラッド・ピットのダブル主役的ハリウッド映画『インタビュー・ウィズ・バンパイア』の残り香でいい方向に転がってくれることもうっすら期待していたのですが、控えめに言っても大スベリ。新しすぎたとかいう問題ではなく、単にテーマを見誤っただけということでした。
 
1998年、シンクロニシティ=共時性をテーマにアメリカ人作家が書いた『Synchronicity & You』(『シンクロニシティとあなた』)という本の翻訳本が発売されることになりました。前の年のブック・エクスポで見つけた本で、著者自身がブースにいたため、その場でかなり深いところまで話を詰めることができました。2冊続けてスベるのは絶対にいやだったので、契約から翻訳まで、もかなり力を入れました。
 
翻訳版発売後1週間くらいのある日地下鉄に乗っていたら、真正面に座っていた男性がこの本を読んでくれていのです。まさにシンクロニシティ。何らかの形で自分が関わったものを、お金を出して買ってくださる方がいらっしゃるという事実は本当に新鮮な驚きでした。
 
1998年の夏、サンタモニカのサードストリート・プロムナードにあるミッドナイトオイルという書店で、『Angel Therapy』という本を見つけました。ピンクのソフトカバーのこの本を最初に手に取ったのは、一緒にいた奥さんです。いわゆるニューエイジ系の本でしたが、このジャンル、かなりキワモノが多いことは否定できません。とりあえず買ってホテルに戻り、まえがきだけ読んでおこうと思って本を開いたら、そのまま一気に読み切ってしまいました。翌朝、10時になるのを待って出版社に電話を入れ、日本語版出版の話をもちかけました。この時は不思議にどんどん話が進んで、1999年10月に翻訳版が発売されました。
 
今はあまり本が売れない時代です。雑誌や新聞も苦戦しています。だからこそ、ネット媒体でも支持されるタイトルを探して、英米の出版社とコンタクトを取っています。自分から動かなきゃ、何も動かないですから。
 
今日もここまで読んでいただき、ありがとうございました。次のアップでお会いしましょう。